令和7年6月1日施行、職場の熱中症対策義務化
2025年6月3日
労働安全衛生規則の一部を改正する省令が令和7年4月15日に公布され、令和7年5月20日、基発0520第6号において、その具体的な内容が発出されました。
省令及び通達内容を下記に抜粋し、ポイントを整理します。
1、義務化の背景と趣旨
近年の気候変動により気温の上昇が続き、熱中症対策は今や重要な社会問題となっています。
これまでも熱中症対策については、厚生労働省からも周知・啓発は行われていますが、それでもここ数年熱中症による労働災害は更に上昇傾向にあり、また特に死亡災害など重篤なものが増えているということです。
重症化や死亡につながる要因の多くは、初期症状の放置や対応の遅れによることから、熱中症症状の早期発見及び重篤化を防ぐために、いくつかの対策が義務化されました。
2、改正省令(労働安全衛生規則第612条の2)
(熱中症を生ずるおそれのある作業)
事業者は、※暑熱な場所において※連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し(①)、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知(③)させなければならない。
2 事業者は、※暑熱な場所において※連続して行われる作業等熱中症 を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め(②)、※当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知(③)させなければならない。
※暑熱な場所とは・・・
・湿球黒球温度(WBGT)が28度以上又は気温が31度以上の場所をいい、いずれか一方でも該当する場合は、暑熱な場所に該当する。
必ずしも事業所や作業場等の特定の場所のみをいうわけではなく、出張先で作業を行う場合や移動して複数の場所で行う場合、作業場所から作業場所への移動時等も含む。
・暑熱な場所に該当するか否かは、原則として作業が行われる場所で実測することにより判断する必要があるが、風通しのよい屋外作業について天気予報や環境省の運営する熱中症予防情報サイト等の活用でもよいとされている。
※連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業とは・・・
上記の暑熱な場所において、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業をいう。
臨時の作業であっても要件を満たす場合は対象となる。
※当該作業に従事する者とは・・・
労働者だけでなく、労働者と同一の場所において当該作業に従事する労働者以外の者を含む。(一人親方等)
3、義務の内容(何をすれば良いのか)
今回の省令改正により義務化される内容は下記の三点です。(上記省令中①~③)
①(連絡体制の整備)
熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者を発見した者がその旨を報告するための体制を事業場ごとにあらかじめ整備しておくこと。
・作業場の責任者等、報告を受ける者の連絡先及び当該者への連絡方法等を、当該作業開始前までに定めること。(余裕をもって定めるよう努める。ただし同一の作業が同一の従事者によって連続して行われる場合であって、すでに整備と周知が行われている場合は、作業日ごとに重ねて行う必要はない。)
・熱中症を生ずるおそれの作業をおこなっている間は、随時報告を受けることができる体制になっていること。(責任者及び不在の場合を想定し、副責任者を定める等)
・電話等で報告を受ける以外にも、責任者による作業場の巡視、2人以上の作業者がお互いの健康状態を確認するバディ制、ウェアラブルデバイスを用いた作業者の熱中症のリスク管理、責任者・労働者双方向での定期連絡やこれらの措置の組み合わせ等、熱中症の疑いを早期に発見できるような仕組みづくりが推奨されている。
②(手順の作成)
熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者への対応に関し、事業場の緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先並びに必要な措置の内容及び手順を事業場ごとにあらかじめ作成しておくこと。
・実際に熱中症の疑いが生じた場合に、どのように対応するのかを、作業場所、作業実態を踏まえ合理的に実施可能な内容とすること。
・熱中症の疑いが生じた場合の対応方法(作業離脱、救急車を呼ぶ、身体の冷却、病院の受診、#7119(救急安心センター事業)への相談等を含むその他初期対応)の手順および、事業場における緊急連絡網や搬送先病院等を定める場合はその内容等も含めて手順書を作成することが望ましい。
また、帰宅後に症状が悪化するケースもあることから、そのような場合の対応方法や連絡方法等も定めておくことも重要。
③(周知)
当該体制や手順など(上記①及び②)について当該作業に従事する者に対し周知すること。
・上記①及び②で定めた体制や手順について、事業場への見やすい場所への掲示、メールの送付、文書の配布のほか、朝礼における伝達、または複数の組み合わせ等、作業者全員に確実に伝わる方法で周知を行うこと。
・対象の作業に従事する当事者でない労働者が、熱中症のおそれのある者を発見する可能性もあるため、該当の作業に従事する者以外にも周知しておくことが望ましい。
・建設業等、建設現場で複数の事業者が作業を行う場合、それぞれの事業者に義務が生じる。
違反があった場合は元方事業者のみならず関係した事業者全てに違反が生じたことになる。
4、罰則
労働安全衛生法第22条違反
6か月以下の懲役または50万以下の罰金(労働安全衛生法第119条)
5、まとめ
屋外で作業をする業種以外にも、例えば営業職等で気温が31度以上の日に1時間以上外回りをするというようなケースでは今回の義務の対象となってきますので、多くの会社で対策が必要となるでしょう。
「義務化」ということだけではなく、いざという時の対応手順や連絡体制を整備しておくことは、熱中症の重症化を防ぐためには非常に重要だと思います。
また社内において、熱中症についての知識を深めるための勉強会を開催することなども、熱中症による災害を防止するうえで大変有効だと思います。
今回の義務では、行った対応等についての記録の保存までは求められていませんが、労働基準監督署の調査時等に、実施内容を説明できるような体制をとっておくことが望ましいでしょう。
同時に熱中症の予防を行うことも非常に重要となりますが、それについては、「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について(基発0520第7号令和7年5月20日一部改正)」において解説されておりますのでご確認ください。
また、厚生労働省のホームページに熱中症発生時の対応手順例等も掲載されていますので、それらを参考に自社にあった手順や体制を構築されるとよいでしょう。
詳細は下記をご確認ください。