無期転換ルールについて
2023年12月4日
改正労働契約法の無期転換ルールは2013年4月1日に施行されていますが、これまでは無期転換の制度を周知することが会社の義務とまではされていませんでした。
2024年4月1日からの労働基準法施行規則の改正により、無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時には、無期転換申込機会に関する事項と無期転換後の労働条件についての明示をすることが義務付けられます。
この機会に、無期転換ルールの内容について再確認しておきましょう。
1.無期転換ルールとは
※① 同一の使用者とは?
事業場単位ではなく、法人単位または個人事業主単位です。
簡単にいうと同じ会社で有期労働契約を締結して働いている期間となりますので、途中で部署の異動や転勤等があっても契約期間は通算されます。
無期転換申込時点においても通算5年を超えて契約してきた使用者との間で有期労働契約を締結していることも申込権発生の要件となります。
また、無期転換申込権の発生を逃れる意図をもって、就業実態がそれまでと変わらないにもかかわらず、派遣形態や請負形態を偽装して労働契約の締結主体を形式的に他の使用者に切り替えた場合は同一の使用者の要件を満たしていると解釈されます。
※② 通算5年とは?
2013年4月1日以降に締結した有期労働契約からカウントします。2以上の有期労働契約を通算した期間が5年を超えていることが要件となります。(更新1回以上必要)
但し、契約期間が5年を経過していなくても無期転換申込権が発生するケースもあります。(契約期間が3年の有期労働契約を更新した場合は通算期間が6年となるため、更新時の4年目には既に無期転換申込権が発生します。)
■契約が一旦途切れた場合は?
同一の使用者との間で有期労働契約が締結されていない期間(無契約期間)が一定期間以上続いた場合はそれ以前の期間は通算されず、次の契約期間からカウントが再スタートします。
通算されるか否かは、無契約期間前の通算契約期間と無契約期間の長さによって決まります。
無契約期間前の通算契約期間 | 無契約期間 | 通算されるか否か |
1年以上 | 6か月以上 | 通算されない |
10か月超~ | 6か月以上 | 通算されない |
8か月超~10か月以下 | 5か月以上 | 通算されない |
6か月超~8か月以下 | 4か月以上 | 通算されない |
4か月超~6か月以下 | 3か月以上 | 通算されない |
2か月超~4か月以下 | 2か月以上 | 通算されない |
2か月以下 | 1か月以上 | 通算されない |
※③ 労働者とは?
労働契約法の適用が除外されている国家公務員、地方公務員、同居の親族のみを使用する場合や労働契約法第18条(無期転換ルール)の適用が除外されている船員を除き、契約社員・パート・アルバイト等の名称を問わず全ての労働者に適用されます。
※④ 申込とは?
契約期間が5年を超えたら自動的に無期労働契約に変更されるわけではなく、労働者からの申込により無期労働契約が成立します。
申込は口頭でも成立しますが、トラブル防止のためにも書面にて行うほうが良いでしょう。(様式例:無期転換申込書・受理通知書の様式例(厚生労働省))
2.無期労働契約の申込のタイミングと無期労働契約の開始日
申込のタイミング:5回目の更新後の1年間
無期契約の開始日:申込時の有期労働契約が終了する日の翌日
申込のタイミング:1回目の更新後の3年間
無期契約の開始日:申込時の有期労働契約が終了する日の翌日
上記のタイミングで無期転換の申込をせずに有期労働契約を更新した場合、また新たな有期労働契約の初日から末日までの間、いつでも無期転換の申込をすることができます。
改正後の労働条件通知書の明示義務においては、無期転換申込権が発生した初回だけでなく、その後更新の都度行う必要があります。
3.有期雇用特別措置法
通常は、同一の使用者との有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合に無期転換申込権が発生しますが、例外として、事業主が都道府県労働局に申請し、認定を受けた場合、無期転換申込権が発生しない特例措置(下記①、②)が適用されます。
高収入で、かつ高度の専門的知識を有し、その高度の専門的知識等を必要とし、5年を超える一定の期間内に完了する業務に従事する有期契約労働者は、その業務に従事している期間は無期転換申込権が発生しません。(無期転換申込権が発生しない期間の上限は10年)
定年に達した後、引き続き雇用される有期契約労働者については、その事業主に定年後引き続いて雇用される期間は無期転換申込権が発生しません。
高度専門職については、プロジェクトの開始後に認定を受けた場合であっても、プロジェクトの開始前に認定を受けた場合と同様に、特例の効果が発生します。
継続雇用の高齢者については、定年を既に迎えている者を雇用している事業主が認定を受けた場合、そのような方も特例となります。
但し、いずれの場合も、認定を受ける前にすでに無期転換権を行使している場合を除きます。
また、特例の対象となり無期転換申込権が発生しないこととなる場合は、契約締結及び更新時の労働条件通知書において、その旨を明示する必要があります。
多くの会社が該当するのは上記②の継続雇用の高齢者の特例だと思います。
まだ認定を受けていない場合は、認定の必要性について一度検討してみると良いでしょう。
また上記特例とは別に、大学等及び研究開発法人の研究者・教員等には、研究開発能力の強化及び教育研究の活性化等の観点から、無期転換申込権発生までの期間について、原則の5年を10年とする特例も設けられています。
有期特措法パンフレット・高度専門職・継続雇用の高齢者の特例(厚生労働省)
大学等及び研究開発法人の研究者・教員等に対する特例(厚生労働省)
4.まとめ
無期転換=正社員と誤解されがちですが、無期転換自体は期間の定めのある労働契約から期間の定めのない労働契約に変更することをいいますので転換後の労働条件を必ずしも正社員と同等にすることまでを求められているわけではなく、無期転換後の労働条件は、特別の定めをしない場合は無期転換前の労働条件と同一というのが原則的考え方になります。
変更することもできますが、労働条件を決定する際は、通常の労働者(正社員や無期雇用フルタイム労働者等)との均等待遇に配慮する必要があります。
2024年4月1日以降に締結する労働条件通知書においては、無期転換後の労働条件の変更の有無、及び変更がある場合は別途労働条件通知書による労働条件の明示が必要となりますが、同時に、労働条件の決定にあたって考慮した事項についての説明も努力義務とされています。
特例措置の適用がある場合を除き、有期契約労働者から無期転換の申込があった場合、会社は断ることはできません。
また、就業規則等に、無期転換の申込は有期契約の終了2か月前までに行うことなどと規定し、従業員の理解・協力を得ることはできますが、法律上無期転換の申込は有期契約の満了日までに行うこととなっているため、有期契約の満了日までの申込であれば、事実上断ることはできないと考えるべきでしょう。
無期転換申込権についての明示義務は2024年4月1日以降に締結する労働条件通知書からになりますが、現時点において既に5年を超える契約を更新している従業員で、且つ無期転換申込権について説明したことがない等の場合は、今の段階から無期転換申込権について説明し、希望があれば次回の契約更新から無期労働契約に変更できるように準備をする等の配慮も必要だと思います。
無期転換のルールを理解したうえで、2024年4月施行の労働基準法施行規則改正に備えましょう。
詳細は下記をご参照ください。