育児・介護休業法の改正について<①育児に関する改正編>
2024年8月2日
男女ともに仕事と育児・介護をより両立しやすい環境の実現を目指し、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)及び次世代育成支援対策推進法(次世代法)の一部を改正する法律が令和6年5月31日に公布されました。
また、同年6月12日には、子供・子育て支援法の一部を改正する法律が公布され、育児に関する給付等、雇用保険法の一部も改正になります。
多くの改正が予定されていますが、まずは、育児に関する改正の概要について確認していきましょう。
【1】子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
1、柔軟な働き方を実現するための措置等の義務化(施行日:公布後1年6か月以内の政令で定める日)
3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対して、下記の項目から2以上を選択して措置することが事業主の義務となります。
措置を選択する際には、過半数組合等(過半数組合がない場合は過半数代表者)からの意見聴取の機会を設ける必要があります。
また、選択した措置については、子が3歳になるまでの適切な時期に個別の周知・意向確認を行います。
労働者は、事業主が講じることとした2以上の措置の中から、一つを選択して利用することができるものです。
<柔軟な働き方を実現するための措置の選択肢>※2つ以上を選択。
①始業時刻等の変更
②テレワーク等(10日/月)※原則時間単位で取得可とする。
③保育施設の設置運営等
④新たな休暇の付与(10日/年)※原則時間単位で取得可とする。
⑤短時間勤務制度
2、所定外労働の制限の対象拡大(施行日:令和7年4月1日)
現行法において、所定外労働の免除を請求できるのは、3歳に満たない子を養育する労働者とされていますが、改正後は、小学校就学前の子を養育する労働者までが請求可能範囲となります。
3、子の看護休暇の見直し(施行日:令和7年4月1日)
子の看護休暇の取得期間延長、取得事由の拡大、及び労使協定の締結により除外できる労働者の範囲の変更等により、より活用しやすい制度へ改正されます。
<改正前> <改正後>
(名称)子の看護休暇 | (名称)子の看護等休暇 |
(対象となる子の範囲)
小学校就学の始期に達するまで |
(対象となる子の範囲)
小学校3年生修了まで |
(取得事由)
・病気・けが ・予防接種・健康診断 |
(取得事由)
※下記事由が追加されます。(詳細は省令) ・感染症に伴う臨時休業・学級閉鎖等 ・入園(入学)式、卒園式等の行事参加 |
(労使協定の締結により除外できる労働者)
・引き続き雇用された期間が6か月未満 ・週の所定労働日数が2日以下 |
(労使協定の締結により除外できる労働者)
・週の所定労働日数が2日以下 (※「引き続き雇用された期間が6か月未満」 の要件は廃止) |
4、育児のためのテレワークの導入の努力義務化(施行日:令和7年4月1日)
3歳に満たない子を養育する労働者が、テレワークを選択できるように措置を講ずることが努力義務になります。
現行法では、小学校就学始期に達するまでの子を養育する労働者に関して、①育児の目的のために使用できる休暇制度を与えるための措置及び子の年齢に応じて、②育児休業又はそれに準ずる措置、③始業時刻の変更等※の措置が努力義務になっていますが、今回の改正により、④「テレワーク」が追加されました。
<※③始業時刻の変更等の措置とは>
・フレックスタイム制度
・始業・終業時間の繰上げ、繰下げ制度(時差出勤)
・保育施設の設置運営、その他これに準ずる便宜の供与
5、育児短時間勤務の代替措置に「テレワーク」の追加(施行日:令和7月4月1日)
現行法において、3歳に満たない子を養育する労働者が希望する場合、短時間勤務制度(1日の所定労働時間を6時間に短縮)を適用させることが義務付けられていますが、業務の性質上、短時間勤務制度を講じることが困難と認められる業務に従事する労働者として労使協定により適用除外された労働者に関して、①育児休業に関する制度に準ずる措置又は②始業時刻の変更等※の代替措置を講じなければならないとされています。
今回の改正により、従来の代替措置に加え、「テレワーク」が追加されます。
<※②始業時刻の変更等の代替措置とは>
・フレックスタイム制度
・始業・終業時間の繰上げ、繰下げ制度(時差出勤)
・保育施設の設置運営、その他これに準ずる便宜の供与
【2】労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取・配慮等の新設
6、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務化(施行日:公布後1年6か月以内の政令で定める日)
令和4年4月1日の改正により、労働者から妊娠・出産の申出があった際には育児休業等の制度について個別の周知及び意向確認をすることが義務づけられていますが、今回の改正は、それに加えて、妊娠、出産の申出時や子が3歳になるまでの適切な時期に、就業条件等について労働者の意向を聴取し、またその意向に対して事業主が配慮をすることを義務付けるものです。
労働者の意向に配慮することで、離職を防ぎ、労働者が仕事と育児を両立しやすくなることを目的としています。
■個別周知・意向確認、及び意向の聴取と配慮等のタイミングや内容について
~労働者からの妊娠・出産の申出時~
①育児休業制度の個別周知・意向確認(令和4年4月1日施行済。産後パパ育休については令和4年10月1日から対象)
※個別周知事項
・育児休業・産後パパ育休に関する制度
・育児休業・産後パパ育休の申出先
・育児休業給付に関すること
・労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取扱い
※意向確認と方法
休業の取得についての意向を、面談、書面交付等の方法により確認する。
②個別の意向の聴取と配慮(今回の改正による)
※意向の聴取(子や各家庭の状況により両立が困難になる場合もあるため、両立するために必要な労働者の意向を確認すること。)
例:勤務時間帯、勤務地、両立支援制度の利用期間の希望等
聴取の方法は、今後、省令により面談や書面交付等とされる予定。
※意向の配慮(意向を確認したあとは、自社の状況に応じ、意向に配慮すること。)
例:配置、業務量の調整、両立支援制度の利用期間等の見直し、労働条件の見直し等
~3歳になるまでの適切な時期~
①柔軟な働き方を実現するための措置の個別周知・意向確認(今回の改正による)
※柔軟な働き方として講ずる措置の制度の説明及び利用の意向を確認する。
※個別周知・確認の方法は、今後、省令により面談や書面交付とされる予定。
②個別の意向の聴取と配慮(今回の改正による)
※<労働者からの妊娠・出産の申出時>の②と同様。
柔軟な働き方を実現するための措置の個別周知・意向確認や仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取は、妊娠・出産の申出時、3歳になるまでの適切な時期だけに限らず、育児休業からの復職時や両立支援制度の利用期間中等、定期的に実施することが望ましいとされています。
7、育児休業取得状況の公表義務が300人超の企業に拡大(施行日:令和7年4月1日)
令和5年4月1日の改正により現行法では、従業員1000人超の会社に、育児休業等の取得状況の公表が義務付けられていますが、今回の改正により従業員300人超の企業に、公表が義務付けられます。
まとめ
今回の改正により、概ね次のような対応が必要になります。
・柔軟な働き方を実現するための措置の検討。
・措置について、過半数組合又は過半数代表者からの意見聴取。
・改正に対応した個別周知、意向確認や個別の意見聴取・配慮等の説明に使用する書面の準備。
・就業規則の変更・追加
・労使協定の再締結(労使協定で対象外とできる労働者について定める場合)
今後、省令等で更に詳細がでてくると思いますので、内容に注視し、実務の対応にいかしていきましょう。
施行日までにはまだ時間がありますが、今のうちから制度について理解を深め、対応すべき事項について早めに準備していくと良いでしょう。
詳細は、厚生労働省のホームページをご確認下さい。